コラム
公開 2022.11.14

成年後見人とは?成年後見制度や手続き方法、なれる人を弁護士がわかりやすく解説

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成年後見制度とは、判断能力が欠けてしまった人の代わりに、裁判所で選任された成年後見人が財産管理などを行う制度です。
今回は、成年後見制度を利用する際の手続きや注意点などについて、弁護士が詳しく解説します。

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成年後見制度とは

成年後見制度とは、法定後見制度の類型の1つです。

中でも、認知症や精神障害などにより判断能力が欠けているのが通常の状態となってしまった方に代わり、成年後見人が財産を管理したり、本人に代わって契約を締結したりすることを可能とする制度が成年後見制度です。

法定後見制度には、次の3つの類型が存在します。

補助

判断能力が不十分な人が利用する制度です。

この制度を利用すると、家庭裁判所の審判で決められた特定の法律行為についてのみ、家庭裁判所が選任した「補助人」に同意権・取消権・代理権が与えられます。

保佐

判断能力が著しく不十分な人が利用する制度です。

この制度を利用すると、借金をすることや保証人となること、不動産を売買することなど、法律で定められた一定の行為及びそれ以外の審判で決められた特定の法律行為について、家庭裁判所が選任した「保佐人」の同意を得ることが必要になり、同意のない行為は取り消すことができます。
また、審判により特定の法律行為の代理権を「保佐人」に与えることができます。

成年後見

判断能力が欠けているのが通常の状態である人が利用する制度です。

この制度を利用すると、家庭裁判所が選任した「成年後見人」が本人の利益を考慮しつつ、本人を代理して契約などの法律行為をすることができるようになる他、本人がした法律行為を取り消すことができるようになります。

任意後見制度との違い

成年後見人などの法定後見制度と似たものに、「任意後見制度」が存在します。
任意後見制度とは、本人の判断能力が十分あるうちに将来任意後見人を引き受けてくれる人と公正証書で契約を結んでおくことで、将来判断能力が不十分となった際にその相手に財産管理などをしてもらうことができる制度です。

後ほど解説しますが、成年後見人を誰にするのかは家庭裁判所が決定します。
一方、任意後見制度ではあらかじめ契約を結んだ相手に後見人となってもらうことができる点が、最大の特徴といえるでしょう。

成年後見制度はどのようなきっかけで利用される?

成年後見制度は、どのようなきっかけで利用されることが多いのでしょうか?
主なきっかけとしては、次のようなものが挙げられます。

本人による財産管理に不安が生じた場合

たとえば、高齢となった親が訪問販売で高額商品を売りつけられるなど、本人による財産管理に不安が生じた際に、成年後見制度の利用を検討するケースがあります。

あらかじめ成年後見人がついていれば、仮に本人が高額商品を購入する契約を締結してしまったとしても、成年後見人がその契約を取り消すことが可能となるためです。

認知症となった本人の不動産を処分する必要が生じた場合

本人が施設へ入所する必要が生じたものの、本人の手持ち資金のみでは到底費用が足りない場合もあることでしょう。
この場合、家族としては、本人の入所により空き家となる本人名義の不動産を売ったり、定期預金を解約したりして、施設入所の費用を捻出したいと考えるかと思います。

しかし、本人が認知症などになっており金融機関が不審に感じた場合には、本人が銀行へ出向いても定期預金の解約などをすることはできません。
また、いくら本人名義の不動産であったとしても、判断能力に疑義が生じた状態のままでは売却することも困難です。

このような場合には、成年後見制度の利用を検討することとなります。
成年後見人がつけば、成年後見人が別途裁判所の許可を得ることで、本人のために本人名義の不動産を売却することなどが可能となるためです。

介護保険契約の締結が必要となった場合

本人が介護サービスを受けるために契約を締結する必要が生じたものの、本人の判断能力が低下していれば、本人が有効に契約を締結することはできません。

このような場合に、成年後見制度の利用が検討されるケースも多いでしょう。
成年後見人がつけば、成年後見人が本人に代わって介護サービスの契約を締結できるためです。

本人が相続人となる相続手続きを進める場合

遺言書などがないまま相続が発生した場合、亡くなった人の遺産を分けるためには、相続人間で遺産分けの話し合いをまとめなければなりません。
この話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。

そして、この遺産分割協議には、相続人全員の参加が必要です。
仮に相続人の中に認知症の人などがいる場合であっても、認知症の人を除外して遺産分割協議を有効に成立させることはできません。

しかし、重い認知症などを患っていれば、本人のみで有効に遺産分割協議を行うことは困難です。
この場合において遺産分割協議を有効に成立させるためには、原則として成年後見制度を利用しなければなりません。

そのため、裁判所に成年後見人を選任してもらったうえで、成年後見人が本人に代わって遺産分割協議に参加することとなります。
なお、成年後見人は本人の権利を守ることを職務としていますので、成年後見人が付いた場合には、原則として認知症の相続人が不利となる遺産分割協議を成立させることはできません。

成年後見人になれる人は誰?

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成年後見制度の利用にあたって、成年後見人になれる人は誰なのでしょうか?
具体的に解説していきましょう。

成年後見人になれない人

法律上、成年後見人になるために特別な資格などは必要とされていません。
次に該当する人は「欠格事由」に該当するため成年後見人になることはできませんが、これら以外の人であれば、誰でも成年後見人となることができます。

  • 未成年者
  • 家庭裁判所で解任された法定代理人、保佐人、補助人
  • 破産者
  • 被後見人に対して訴訟をした者と、その配偶者やその直系血族
  • 行方の知れない者

誰が成年後見人になるのかは家庭裁判所が決める

成年後見人が誰になるのか最終的に決めるのは、家庭裁判所です。
成年後見制度の利用を申し立てる際に成年後見人の候補者を挙げることはできますが、必ずしもその希望が通るとは限りません。

また、誰を成年後見人とするのかは、諸般の事情を考慮したうえで決定されます。
たとえ先ほど解説した欠格要件のどれにも該当しない人が候補者に自分の氏名を書いたとしても、選任されない可能性は十分にあることを知っておきましょう。

成年後見人における親族と専門家の割合

厚生労働省が公表している「成年後見制度の現状」(令和4年8月版)によれば、実際に選任された成年後見人の親族と親族以外との割合は、それぞれ次のとおりです。

  • 親族(子や兄弟姉妹など):19.8%
  • 親族以外:80.2%

そして、この「親族以外」のうち、専門家(弁護士や司法書士、社会福祉士など)が選任されたのが86.5%となっており、これは全体の約69%にあたります。
このことから、成年後見人に親族が選任されるケースが約2割であるのに対し、約7割という多くのケースで専門家が選任されている現状が伺えます。

専門家が成年後見人に選ばれやすいケース

次の場合では特に、親族ではなく専門家が成年後見人に選任される可能性が高くなります。

親族内に適任者がいない場合

たとえば、本人が一人暮らしであり、親族はすべて離れた地域で暮らしているケースなど、親族内に適任者がいない場合には、成年後見人として専門家が選任されることとなるでしょう。

親族間で意見の対立がある場合

成年後見人の適任者などについて親族間で争いがある場合には、専門家が成年後見人に選任される可能性が高いでしょう。

この場合、仮に親族を成年後見人に選任すると、財産の管理方法などをめぐってさらなる対立に発展するおそれがあるためです。

本人の財産が多額である場合

成年後見人が管理すべき本人の財産が多額である場合や、複数棟の不動産経営をしているなど財産管理の難易度が比較的高い場合などには、成年後見人として専門家が選任される可能性が高いでしょう。

成年後見人を選任してもらう手続きの流れ

成年後見制度を利用するまでの手続きの一般的な流れは、次のとおりです。

成年後見制度について相談して理解する

成年後見について利用の申し立てをする前に、申し立ての手続きをする親族などが、成年後見制度についてよく理解しておくべきです。

そのため、事前に弁護士などの専門家や地域の成年後見推進センターなどへ相談をしたうえで、成年後見制度について理解を深めておくことをおすすめします。

また、制度を利用する当事者である本人に対しても成年後見制度についての説明を行い、可能な限り理解を促すべきでしょう。

家庭裁判所へ申し立てをする

成年後見制度について理解ができたら、管轄の家庭裁判所へ後見開始の審判を申し立てます。
申し立て先の家庭裁判所は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。

申し立てには、専用の申立書の他、次の書類が必要となります。

  • 本人の戸籍謄本(発行から3ヶ月以内のもの)
  • 本人の住民票(発行から3ヶ月以内のもの)
  • 本人の診断書(発行から3ヶ月以内のもの)
  • 精神障害者保健福祉手帳や介護保険認定書など本人の健康状態に関する資料
  • 本人情報シートの写し
  • 預貯金通帳写しや不動産登記事項証明書など本人の財産に関する資料
  • 年金額決定通知書や確定申告書など本人の収入に関する資料
  • 施設利用料や入院費など本人の支出に関する資料

なお、これらは申し立てに際して一般的に必要となる書類です。
状況に応じてこれら以外の書類が必要となることもありますので、他の資料については裁判所などの指示に従ってください。

家庭裁判所による調査などが行われる

家庭裁判所へ後見開始の審判を申し立てると、家庭裁判所による調査が行われます。
具体的には、本人と面談のうえ、本人の状態や成年後見制度利用についての意思を確認するなどです。

他にも、成年後見人の候補者との面談や、場合によっては推定相続人(本人が亡くなった際に相続人となる予定の人)への聞き取り調査が行われる場合などがあります。

家庭裁判所から審判が下りる

申立書類や調査の結果を総合的に判断の上、家庭裁判所から審判が下ります。
成年後見制度の利用が認められた場合には、この時点から成年後見人の業務がスタートします。

成年後見人の主な役割とできないこと

成年後見人の主な役割と、成年後見人ができないことは、それぞれ次のとおりです。

主な役割

成年後見人が担う主な役割には、次のものが挙げられます。

本人の生活面への配慮や見守り

成年後見人の主な職務の一つに、本人の身上保護が挙げられます。
たとえば、本人の生活面への配慮や定期的な見守りなどがこれに該当します。

本人の財産管理

成年後見人の主な職務のもう一つの柱は、本人の財産管理です。
具体的には、本人の預貯金通帳を管理して入院費などの必要な費用を支払ったり、収支計画を立てたりすることなどがこれに該当します。

本人が元々賃貸用の不動産を所有していた場合などには、この賃料入金の管理なども行います。

本人に関する生活上の契約手続き

本人に関する生活上の契約手続きも、成年後見人の重要な役割の一つです。

先ほど解説した生活面への配慮や見守りの結果を踏まえ、本人の状況に応じた介護・福祉サービスの利用契約を締結したり、施設入所や入院の契約を締結したりすることなどがこれに該当します。

本人に関する公的手続き

必要に応じて本人に関する公的手続きを行うことも、成年後見人の役割です。

たとえば、要介護認定の申請や生活保護の申請、必要に応じて戸籍謄本など公的書類を取得することなどがこれに該当します。

できないこと

一方、次のような行為は成年後見人の職務ではありません。
これらの行為はできませんので、誤解のないよう注意してください。

医療行為への同意

医療行為への同意は、成年後見人の職務範囲外です。
もちろん、成年後見人が親族である場合には、成年後見人としてではなく親族として同意をすることは問題ありません。

介護や送迎などの事実行為

介護や送迎、家の掃除などの事実行為は、成年後見人の職務ではありません。
これらは、介護であれば介護ヘルパーなど、適切な専門家へ依頼すべき性質のものです。

もちろん、必要に応じて成年後見人が介護ヘルパーとの契約などを本人に代わって締結することは可能です。

婚姻や離婚、養子縁組などの身分行為

婚姻や離婚、養子縁組、離縁などの身分行為は、たとえ成年後見人であっても行うことはできません。
これらは、本人のみが行うことのできる行為です。

遺言

成年後見人であっても、本人に代わって遺言書を作成することなどはできません。
遺言を作成することができるのは、本人のみです。

なお、成年後見制度を利用している人であっても、例外的に遺言が可能な場合があります。
本人が遺言書の作成を望んでいる場合には、対応できる弁護士などを探してつないであげるとよいでしょう。

本人の利益とならない行為

成年後見人は、本人の利益を守る役割を担っています。
そのため、たとえば本人の財産を子や孫に贈与する行為や、本人に代わって「何も相続しない」との内容の遺産分割協議を成立させる行為など、本人の利益にならない行為をすることはできません。

成年後見制度を利用する際の注意点

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成年後見制度については、誤解も少なくありません。
これから成年後見制度を利用しようと考える際には、次の点に注意しておきましょう。

本人の財産を自由に使える制度ではない

成年後見制度を利用して成年後見人になったからといって、本人の財産が自由に使えるようになるわけではありません。

横領や使い込みなどはもってのほかですが、たとえば次のような行為は家庭裁判所の許可が下りない可能性が高いでしょう。

  1. 本人の所有不動産を、本人と関係のない第三者の借金の担保(抵当)に入れる行為
  2. 相続税対策などを目的として、本人から子や孫などに贈与をする行為
  3. 相続税対策などを目的として、本人の財産でアパート建築をする行為

成年後見制度は、あくまでも本人の財産を守るための制度です。
たとえば、「1」のように、本人以外の利益を目的とした行為は認められません。

また、「2」や「3」などの相続税対策も、本人の財産を毀損したり毀損する可能性があったりする行為であるため、認められないことが一般的です。

家庭裁判所への報告義務がある

成年後見人には、本人の収支状況や財産の状況について、定期的に家庭裁判所へ報告する義務が課されています。
そのため、成年後見人になったからといって本人の財産を自由にできるわけではありません。

むしろ、家庭裁判所の監視が入る分、本人の財産を移動させることへの自由度は低下するとの見方もできるでしょう。

また、報告には一定の手間がかかります。

必ずしも希望した候補者が選任されるとは限らない

先ほども解説したように、いくら自分が成年後見人になりたいと考えても、必ずしも成年後見人に選任されるとは限りません。
候補者として自分の氏名を記載したとしても、裁判所の判断により別の親族や専門家が成年後見人として選任される可能性は十分にあり得ます。

専門家が成年後見人に選任されたら費用がかかる

専門家が成年後見人として選任された場合には、財産の状況や職務内容に応じて報酬を支払う必要があります。

また、仮に自分を候補者として申し立てたにもかかわらず、結果的に専門家が選任されたからといって、申し立てを取り下げることなどはできません。

一度成年後見人に選任されたら簡単にはやめられない

一度成年後見人に選任されると、その後簡単にはやめることができません。
たとえば、安易に成年後見人となったものの、実際にやってみたら報告などが面倒であったからといって「やっぱり辞めます」ということはできない可能性が高いということです。

成年後見人を辞任するには、家庭裁判所の許可を得なければなりません。

そして、その許可を得るためには、たとえば成年後見人自身が高齢になったり病気になったりして職務遂行が難しくなったことや、転勤で遠方へ引っ越さざるを得ない事情が生じたことなど、正当な事由が必要とされます。

まとめ

成年後見制度は、本人の財産を守るための制度です。
高齢の親が訪問販売で騙されて困っているなど本人に財産管理をさせることに不安が生じた場合や、本人が相続人となる相続が発生した場合などには、成年後見制度の利用を検討しましょう。

しかし、成年後見制度には注意点も少なくありません。
成年後見制度についてお考えの際や、あらかじめ任意後見契約を締結して将来に備えておきたい場合などは、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
日本大学法学部卒業、日本大学大学院法務研究科修了。個人法務及び企業法務の民事事件から刑事事件まで、幅広い分野で実績を持つ。離婚や相続などの家事事件、不動産法務を中心に取り扱う一方、新規分野についても、これまでの実践経験を活かし、柔軟な早期解決を目指す。弁護士会では、人権擁護委員会と司法修習委員会で活動している。
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